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「子どもと出頭すべし」
ある日、おやじに「子どもと一緒に出頭すべし」と一通の通知が来た。おやじのあわてぶりは、それはたとえようもないもので、ハガキを持ち本家に相談に行く始末で、たちまち村中に話は広まり「金三がとんでもないことをした」と有名になってしまった。 良いことなのか、悪いことなのかと考えても、憲兵隊といえば、あまりにも大変なことで、親の心配は並みたいていのことではなかった。 当日、「何を聞かれても声を出してはダメ」ときつく言われ、口数の少ない二人は握り飯を食べながら秋田市まで1時間半、汽車に乗って出かけた。 秋田憲兵隊は小砂利が敷いてあり、その立派さに子どもながらキョロキョロしついていった。当年9歳の少年は、ものめずらしさと反面恐さとで複雑な心境でした。 いよいよ取り調べである。5〜6人の軍服に軍刀を下げた憲兵は、父と自分を見る目つきの鋭さとは打って変わって、優しいことばでホッとした。名前を聞かれて「ハイ」と答え、次は父に「子どもをつれて横須賀に行ったことはないか」とのこと。何がなんだかわからない話。 戦争中はどんな品物を買うにも、食料キップ、衣料キップがいる。家族に何点という配給があり、それを持って品物を買ったものだった。 実は横須賀の工場で働いている兄貴が、金三という名前の入っているキップをトランクごと盗難にあったというだけのことでした。何とも変な話でしょうね。 (新宿)
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