![]() |
![]() ![]() |
| ||
「あなたは魔法使いね」
昭和39年、当時の親方の協力があってのことでしたが、結婚してまもなく、労働金庫から建築資金を借りて「わが家」を立てることになったのです。まだ、手間取りの大工でした。15・5坪の借地に18坪の二人だけのわが家です。 妻は、結婚してから私が“大工”であることがやっとわかりかけてきてはいましたが、大工職人ということに私自身がまだ卑下しており、恋する妻の前では劣等感のままでした。 そんな私が自分たちの家を設計し、材木店で刻み仕事をし、基礎工事の段取りをしながらとび職の手配です。やがて建前、ささやかながら両家族も集まってお祝いをしたあと、現場の大工仕事は私一人。勤めている妻が休日に手伝いに来るたび部屋の形が出来、台所・浴室・トイレ・玄関と形が出来、これもささやかな床の間の格好がつき、そして階段ができるのです。 いろんなカタログから注文と手配、合間には組合事務所の「労金」に足を運び、左官、板金・建具・水道・電気・タイル、タタミなど、間違いなく一軒のわが家が完成に近づいてきました。そんな秋晴れのある日、妻は天を見上げて「大工だかなんだか知れないけれど、あなたは魔法使いね」と言ってくれました。 労金からの借金に、大工の私の手間もきちんと入っていました。 (足立)
|