施主の和室で洋食
女中さんとの結婚作戦か

早川隆
 私の「忘れえぬこと」といえば18歳の頃、西武線の井荻にある上流邸宅へ、タイル工事のため1人で仕事に行ったときの話です。
 初日のこと、弁当は持参していたのですが、昼時になるとその家の奥さんから「お兄さんの弁当は私たちが食べるから、私たちが用意した料理を食べてください」と言われました。
 仕事着だというのに立派な和室に通され、17歳くらいの女中さんからお給仕を受けました。ナイフとフォークを使い洋食をいただきました。けれども女中さんがそばにつきっきりでしたので、まだ若かった私は緊張して食べた気がしませんでした。
 午後2時頃になると、奥さんは「私はこれから買物に行って友人の所にも寄ってきますので、夕方6時頃まで帰りません。3時のお茶などは女中に言い聞かせてありますから」と言われました。
 さて3時になり、女中さんの部屋にお茶が用意されました。私が正座していると、胸の奥まで見えるような洋服に着替えた女中さんが、“どうにでもしてください”といわんばかりの仕草ですり寄ってきました。
 その娘さんの話では、どうやら奥さんが私と一緒にさせようと計画した作戦だったようです。しかし、そのほかは何事もなく2日間にわたる仕事を終らせました。
 あれから46年たった現在でも私の忘れえぬ思い出となっています。

(荒川)