![]() |
![]() ![]() |
| ||
手形を持って畳屋は夜逃げ
35万円を3枚計105万円です。夫はすぐに銀行へ行ってその足で貸して来たとの事でした。見返りに105万円の手形をもらい気分良く帰って来た夫でした。 その日から22日経った9月6日、銀行の人が来て「畳屋さんが夜逃げした」と聞きました。すぐに畳屋さんの家へ行って見たら何一つなくなっていました。 あの時の105万円は痛かった。その頃に、私は3番目の子を妊娠していて、なぜこんな時にとつくづく思ったものです。 夫に「金は返ってこないだろうから、おまえも子どもを産むな」と言われて、毎日流産すればといろいろしましたが、なぜかしっかりと離れようとしません。上の子と違う事に気づき「お父さん。今度は男の子かもよ。食べたくなる物が全然違うのよ。私ね、105万円の形見にこの子を産むからね」と決心の末、夫に言いました。 その後も、この手形のことで奔走し、悔しさや情けなさで涙が止まらない日々が少なからずありました。その度に「この子のためにも、今後は気をつけよう」と思い直し、昭和44年4月に男の子は産みました。「この子は105万円の形見」、そんな思いで育てました。 その息子も今では35歳。2人の父親としてまめに子育てをしています。息子は自分の父親と遊んだ覚えがないので、十分に遊んでやりたいと申しております。私は息子に「今しか出来ないことだから思い残す事のないように」と言っています。 (板橋)
|