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客とのかけひき楽しんで
河津の駅前から川辺へと続く桜並木で毎年2月10日〜3月10日に開かれる「河津桜まつり」。桜の下には数々の露店が立ち並び、その中に魚の干物を売っている店の「おばはん」が私です。 「ハイ。押さないで押さないで、売るほどあるからね」「奥さん沢山買ってくれたからおまけだよ」「アラ、私には?」「一つでおまけかい、世帯もちがいいね。ハイヨッと」。 2月の伊豆は太陽の光が強くてもまだ風はかなり冷たく寒い。屋台の下にはワンカップが一つ二つ置いてある。それで時々喉を潤しては声を張り上げる。 「さあさあ一夜干しのイカはいかが。朝3時起きで開いて干しているんだ。この手を見てよ」。まつりも中盤を過ぎる頃になると潮風と太陽、魚の脂で手は真っ黒。こんな言葉もピッタリです。「自家製だから安いんだよ。ホラ、焼けたよ。味見して。いくらでもいいよ。食べたから買えなんてケチなこと言わないから」「うめえなあ。酒は無いの?」「うちは魚屋。酒は酒屋」と口も手も休まる事がなく動いている。 この仕事を始めた年の数日はちょっと戸惑いがあったが、「まあいいか。知っている人もいないし、楽しんじゃえ」と開き直った。 魚が飛ぶように売れ面白いの何のって、こりゃ私の天職かなと思えるほどでした。 体が少し空くと、あけびの蔓を取って籠を編んだりと充実した日々。朝は地平線から出る日の出を見、夜空には宝石を散りばめたような無数の星空が半円に見え、地球が丸いというのを実感し、言葉では言いつくせない感動でした。 今でも昨日の事のように思い出されます。 (板橋)
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