中学での説教と戦争
特攻機訓練を受けた先生

大高健次
 これまで34年の人生で、「忘れえぬこと」と言えば、中学生のころの話だ。中学生の僕はあまり先生の言う事を聞かない悪い生徒だった。
 ある時、職員室に呼び出されて1時間くらいお説教を受けた。
 先生は「大高!お前は毎回言う事を聞かない。戦時中だったら許されないゾ!」と言って自分の戦争体験を話してくれた。
 太平洋戦争の末期、まだ10代だった先生はある日夜汽車に乗せられて着いたところは、宮崎県日向市のとある場所だった。
 それから毎日毎日、小高い丘からグライダーのような物で目標物に向かって飛び降りる訓練を受けた。いったい何のためにこんな事をしているのかもわからず、知らされもせず、目標物に当らないと殴られた。そんな事を繰り返しているうちに、終戦になってしまった。
 終戦からしばらく経って、日向での訓練は特攻機「桜花」のパイロットになるための数ヶ月だったことがわかった。
 その話を聞いていた僕は訳がわからず「ヘェ〜」くらいの感じだった。しかしその後松本零士さんの戦争マンガ『コックピット』で「桜花」を描いた作品を読んで鳥肌が立った。
 「桜花」は一式陸攻という型の飛行機で1トン近くの爆薬を積み、ジェットエンジンで音速を超えるスピードで、敵の戦艦や空母に体当たりする。先生は「桜花」のパーツになるところだったのだ。戦争はとんでもない物まで作り出す狂気の世界だ。
 1時間のお説教の最後の言葉に「あと1年戦争が延びていたら、お前に説教なんかできる人間じゃなかったんだぞ!」
 イラク戦争の報道を見ると、あの時のお説教の1時間を思い出す。

(練馬)