鳶も恐れる高所に
青春のチャレンジ精神

天野清正
  今から40年前のこと。ある工事現場で、屋上にある旗竿の先端部分の滑車に、旗の一部が千切れて巻きつき、ロープが動かなくなったことがありました。
 ビルのオーナーが鳶職の方に依頼したのですが、断られたそうです。なぜかと言うと、4階建ての屋上道路側の隅に建てられている旗竿は、さらに2階分、都合6階の高さがあり、倒れたら道路に投げ出されてしまう危険があるので断ってきたとの事でした。
 たまたま私たちは電気工事の仕事でそこにいたのですが、オーナーが来て、「電気屋さん。あの旗の千切れたものを取ってもらえないか」と頼まれました。
 私も友だちも22、3才の若者。友だちが最初にチャレンジしましたが、2メートルくらいで降りてきて、「俺には無理だよ」と諦めてしまいました。
 次は私の番。1回目は私も2メートルぐらいの所で降りてきてしまいました。しかし、すごく心残りがしました。
 「もしこの旗竿が折れたら死ぬかもしれない」。そんな恐怖で登れなかった悔しさに、自己嫌悪を感じ、ここで諦めたら一生後悔すると思い、再度チャレンジしました。
 途中、下を見ると道路に吸い込まれそうな気持ちになり、足がすくみました。降りたい気持ちとたたかいながら、一歩一歩竿の頂点をめざして登っていきました。
 3分ほどで頂点にたどり着き、千切れた旗を手にして降り始めた時、「やったぜ!」という何とも言えない満足感に涙さえ出てきました。
 オーナーには、鳶職人でさえ出来なかったことに挑戦してくれたといたく感謝され、金一封を頂き、とても嬉しかった事を覚えています。そして何より「諦めない気持ち」の大切さを学び、以後の人生に役立つこととなりました。

(中野)