2017年4月20日第2207号
脱原発の哲学/佐藤嘉幸・田口卓臣
あわゆる角度から原発を問い直す
【本部・小路芳雄記】原発を問い直すこの本は、原発推進に潜む差別性と、事故に対する非科学的ともいえる論理に対する哲学的分析と反論の書だ。
原発推進の歴史は、「原発事故は起こらない」という神話の歴史。専門家たちは、科学的論拠を示さないまま「事故は起こらない」と否認し続けてきた。しかし現実には、福島で原発事故は起きてしまった。「プルトニウムは飲んでも問題ない」「放射能は笑っている人には来ない」といったいずれも専門家とされる人たちの発言は、もはや性質の悪いブラックユーモアとしか思えない。
「科学」とはいったい何なのか。著者らは、原発推進の科学者が健全な批判精神を失い、中立性の名の下に現状肯定と既得権益の擁護に走る様を痛烈に批判している。
また原発は、その存続上、どうしても多くの差別性をはらんでいる。まず、立地地域への差別性。地域格差・貧困ゆえ原発誘致をせざるを得ないという状況では、国家・電力会社とその地域は対等な関係にはなりえない。次に、原発の下請作業員に対する差別性。そして、被害地域への差別である。原発最大の難問である放射性廃棄物の最終処分問題も、最終処分施設の立地地域だけでなく、将来に大きな影響を与える。なぜなら、危険な放射性廃棄物を10万年ものあいだ管理する必要を将来世代に委ねざるを得ないのだから。
まさに多くの点で示唆に富んだ、未来を見据えるための書として、この本をお薦めしたい。
(人文書院・3900円+税)
> 記事一覧へ戻る