建設業ではたらく仲間をサポート

FAX:03-5332-3972 〒169-0074 新宿区北新宿1-8-16【地図
メニュー

[連載] 本の紹介

2016年8月20日第2183号


精霊の守り人/上橋菜穂子著

人斬りバルサの心に秘めたものは

PHOTO 自分の人生や、現状を語るとき、「これは運命だ」などということを簡単に言ってしまう感がある。「運命」とはなにかも知らずに。知っているか知らずにか関係なく人は与えられた環境の中で生きていける。生きがいがあろうとなかろうとそれも関係なく。
 物語はまさに運命に左右される人物を描いている。古い時代のファンタジーという作風である。バルサという武術の使い手が主人公で食うために、その技術をつかい、命がけで剣を振り、人を斬る仕事。依頼人は厄介な人たちばかり。戦いの激しい描写は、作者上橋菜穂子の筆が遠りょなく過酷に表現し、これでもかというほど想像を掻き立てられる。もちろん空想の世界なのだが、このバルサの魅力がふんだんに引き出されていく。
 所詮、バルサ自身は心を捨て憎しみさえなく相手を斬ることができる無情な人物かもしれない。しかし誰かに心を許した瞬間に、また敵の刺客のワナにかかることもあるから、そうするしかないのだ。斬ったあとの結末に関心はないし、報酬を得られればよい。そうそれでよいのだ。「そうはいっても人の子」垣間見える、貧しい子どもたちへの無償の愛情。読み手が引き込まれる要素の一つである。
 初代皇帝は、海を渡りこのナヨロ半島原住民ヤクーたちの土地と権利を奪うが、もっと合理的な理由を創るため私は神を見たという見聞伝を国中に広げ、神のお告げにより、自ら帝を司るとした。それを支えるのは聖道師。皇帝にものが言える唯一の存在。もっとも身分すらないバルサには関係ない問題なのだが。(新潮文庫・590円 税抜き)

> 記事一覧へ戻る

電話:03-5332-3971 FAX:03-5332-3972
〒169-0074 新宿区北新宿1-8-16【地図