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○ 数十年の福島復興計画を

立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長 安斎育郎さん

 原発事故の被災地、福島県で、被ばくを減らすための相談や調査、除染に事故直後から携わってきました。3年前からは、研究者と技術者、平均年齢68歳の5人で、保育園や小学校、民家などを回っています。私たちはこの活動を「福島プロジェクト」と呼び、完全ボランティアで、ほぼ毎月現地を訪れています。
 除染や遮蔽をすれば放射線量は必ず下げられます。現地に入り、どうすれば被ばくを減らせるかを、具体的に提言し、実践すること。国の原子力政策の危うさを指摘してきた科学者の一人として、人類史上最悪の事故を防げなかった自責の念からの行動です。
 活動を通じて思うことは、とてつもない事故が起きたということです。6年近くを経た今も、原子炉内部がどういう状況なのか、どんな技術が必要なのかも分かっていません。除染が行われた地域でも、所々で強い汚染が残る「まだら汚染」が広がっています。
 国や電力会社はもちろん、科学者への信頼も崩れました。放射線防護学上、問題ないと思われる地域でも、布団を外で干さない、水道水を飲まない、子どもを外で遊ばせない、などの過剰反応が今も見受けられます。
 科学的知見を踏まえ大丈夫だと説明しても、「この人は国・電力会社寄りか」と見られ、被災者の心に届きません。信頼を回復するには、科学者自身が原発を推進した過去を反省すること、被災者に結論を押し付けないこと、「隠さない、うそをつかない、過小評価しない」という確固たる姿勢を示すことが必要です。

東京五輪以上の予算を

 国はこの先数十年にわたる除染計画を立てるべきです。福島の復興に除染は欠かせません。東京五輪以上にしっかり予算を注ぎ込むことが必要です。
 国は除染を1回しか行わないという方針ですが、全く不十分です。10分の1に減るのに100年もかかる放射性物質が相手。たった1回の除染で済むはずがありません。しかも山地は全く手付かずです。原発から離れた地域でも、雨どいの下や屋根、排水口、くぼ地などは、放射線量が高くなる傾向があります。山の木の葉に付着した放射性物質は3~5年を経て腐葉土となり、里に流れてくることもあります。
 不適正除染の問題もありました。保育園に隣接した公園で起きたことですが、除染したはずなのに、線量が高い。汚染土をかぶせたとしか思えないようなケースでした。
 政府は原子力規制委員会の新規制基準を「世界一厳しい」と自賛しています。事故の原因がはっきりしていない下で設けた基準に信用性はありません。また、これは再稼働の是非を判断するのではなく、再稼働を行うための基準です。だまされてはいけません。

主権者として声あげよう

 「エネルギーをどうするか」は本来、主権者である国民が決めるべきです。2016年は、鹿児島県や新潟県で、再稼働に慎重な知事が誕生するという大きな変化がありました。私たちはもっと深く学び、主権者として声をあげていく必要があります。

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