格差と貧困の原因はどこにあるのか。12月14日、第21回立川地域税制・税務行政研究交流集会での全労連賃金・公契約対策局長の斎藤寛生さんの講演「逆立ち税制が広げる格差と貧困」から内容の一部を紹介します。(文責・編集部)
増えつづける非正規
根拠のない生活保護基準
斎藤さん
貧困率16.7%、つまり6人に1人が貧困といわれています。OECD加盟35カ国の中で下から4番目です。母子家庭の貧困率は51.4%で世界でも最悪です。母子家庭の48%は非正規です。
非正規労働者の割合と年収200万円以下の層の増加が一致しています。非正規労働者は全労働者の4割といわれ、どんどん増えています。保育園で6割、役所の4割が非正規です。非正規の平均年収は140万円から150万円です。東京では25歳単身者で全く仕事がない場合、生活保護で年間202万円受給されますが、932円の最低賃金では158万円です。生活保護より低い。非正規には住宅手当、扶養手当などありません。お金が欲しければ長時間働けということです。大事なのは8時間働けば、人間らしく暮せる賃金が得られるのかということです。そこが崩れているから、長時間労働が当たり前になっているのです。
非正規の賃金は正規の3割から5割です。この原因は「男が外で働き、女は家を守る」という性別役割分業を基にした制度設計にあります。非正規の2割は主たる生計者です。手当もボーナスもなく働いています。慶弔の休みもありません。
地方は物価が安いと思われていますが、安いのは家賃だけです。生活保護では地域ごとに6段階に分かれていますが、例えば自治体が合併すると、合併前と同じ生活をしていてもランクが上がります。つまり生活保護基準には根拠がないということです。
最低賃金もA~Dの4ランクに分かれています。東京、神奈川、名古屋、大阪がAランクで、時給が一番高いのは東京で932円、一番低いのが宮崎と沖縄で714円です。差が218円もあります。物価が一番高いのが神奈川で全国平均を100とすると106.1です。一番低いのは群馬で96.6です。上と下は10ポイントも差がない。沖縄は99.2です。物価が安いから賃金額が低いというのは通らない。物価は10%も違わないのに、最低賃金は24%も違う。このように生計費では地方も東京も差がないのです。
生存権保障にいくら必要か
総務省などが給料の調査結果を発表しており、正規労働者で44万円くらいといいますが、それが果たして人間らしい暮らしができる水準ですかという問いかけがありません。憲法25条でいう「生存権」を保障するにはいくら必要かという基準がない。健康で文化的な最低限度の生活にはいくらかかるかという指標がないのです。ですから生活保護費が勝手に下げられたりします。
朝日訴訟の最高裁の判決の中で貧困は社会の状況のなかで変化するといっています。死ななければいいのではなく、文化的水準も維持して行かなくてはならないとしています。そのなかで生活保護の基準も変わってきましたが、文化的な最低限度は何かというと、インドの経済学者のアマルティア・センが、日本国憲法25条が求める基準として示した「読み書きができるか」といったことです。
日本という国は社会保障がものすごく貧しいです。医療、教育に金がかかる、家は高い、老後は不安だ、つまり社会保障に関わるものを全部、自分の収入から出さなければいけない。そうしなければ生活できないような制度です。だから右肩上がりの賃金にしないと生活できない。
年功序列型賃金は日本の社会保障制度の貧しさに合わせた賃金制度です。そこに成果主義を持ち込むと、勝ち組はいいが勝てない人は貧困に落ち込んでいかざるを得ない。今の制度を壊すといっている安倍首相のやり方を進めるほど貧困はどんどん増えます。
安倍首相は非正規という言葉を一掃したいと言いましたが、簡単です。全部非正規にすればいいということです。労働を流動化させようとしています。
お金がなくても進学を
「つばめ塾」のチャレンジ
戻ってこいと名付けられた「つばめ塾」
NPO法人「八王子つばめ塾」は無料で子どもたちに勉強を教える学習塾です。ここを立ち上げた小宮位之(たかゆき)理事長(39歳)にお話をお伺いしました。
【小宮理事長談】私自身が貧困家庭に育ち、大学進学に苦労したことから、お金がないと進学できないのかと肌身に感じました。今でも共働き、母子家庭など厳しい家庭があります。そのなかで、進学のために何かできることはないかと考え、塾をつくれないかと思いました。塾代を浮かしてあげることで食費や生活費に回したり、進学の費用に貯めたりできて助かる人がいるのではないかと思ったのです。国分寺にあった無料塾も見て、塾をつくるきっかけになりました。
「つばめ塾」の名前は立ち上げたときすぐに思いつきました。塾に通った子どもたちが、何年かのちにでも、先生たちが仕事を持ちながらもボランティアで教えてくれていたことを思いだし、自分も人のために役に立つフィールドに戻ってきてほしいと考えました。
今は80人くらい生徒がいますがそのうち60人くらいが中学生です。高校は学費の高い私立ではなく都立へ行きたいが、誰もが塾に通っているので、塾に行かなければ受験で落ちてしまう。入れる学校へとランクを落とすと入学してからやる気をなくす子も出てきます。そうした悪循環をなくしてあげたい。生活が厳しい家庭では親が勉強をみることができないし、学校でもフォローされていないのです。
根本的には公教育が完結していないことが問題です。学校で教えるだけで都立校へ入学できるようになっていないのです。
そして、母子家庭などの収入の低さも問題です。つばめ塾で米を配ったことがありますが、3割の子どもが受け取りました。子育ても厳しい家庭があるという収入構造を何とかしなくてはいけないのだと思います。
食の提供広げる
もったいないを「えがお」に
食品を受け付けるフードドライブ
「フードバンク八王子えがお」(以下「えがお」)は「もったいないをえがおに、食に困る人びとを地域で支えあう」(「えがお通信」)ことを目的に昨年3月10日に任意団体として立ち上げ、9月11日にはNPO法人としてスタートしました。
「えがお」を設立したきっかけは、代表を務める佐野英司さんが、一昨年9月の八王子母親大会で子どもの貧困について講演した際、参加者が自分たちにできることはないかと話し合ったことです。
そして全国でも取り組まれているフードバンク活動ができないかと、先進的に活動している「フードバンク山梨」の見学や先行して実践している「フードバンク狛江」に学び、任意団体を立ち上げました。活動に賛同する会員は母親連絡会などで声をかけて集め、今では賛助会員も合せて80人ほどになります。
「えがお」を立ち上げたものの、食品会社やスーパーの協力が得られず、見通しが立たないところ、転機となったのは市内の一軒のパン屋「ファリーヌ」と無料学習塾「つばめ塾」との出会いでした。冷凍パンを塾の生徒に配る定期便配達活動を開始、この活動は今も週1回続けています。
そして「えがお」会員でコープみらい組合員を中心に結成されたコープ地域クラブ「えがおのおすそわけ」(代表:仲村みち江さん)がフードドライブ(食品寄付受付)活動を始め、NPO法人として活動を開始した「えがお」が集まった食品を必要とする団体に配布できるようになりました。フードドライブはこれまで2回開催し、第1回(10月30日)で320㎏以上、第2回(12月11日)で182㎏の食品が集まりました。
これらの食品は八王子市生活自立支援課を通じて支援が必要な家庭や、他にもグループホーム、子ども食堂などへ配られています。
第2回のフードドライブの会場で「えがお」事務局長の三浦すみえさんは、「フードドライブ活動は高校生や企業の従業員などが自主的に行なっているところもある。八王子でももっと活動範囲を広げることができる」と今後の展望を語ってくれました。