東京保険医協会 須田昭夫副会長
40兆円市場解放せよ
投資家の病院経営も要求
日本の公的医療保険にアメリカがこれまでに要求してきたものは、「医療市場の開放」、「医療に市場原理を導入せよ。よいものは高くてよい」「医療を外国企業に開放せよ。外国の投資家に病院経営を認めなさい」「画期的な薬が出たら、新薬創出加算という割増料金をずっと続けるように上限を廃止しろ」というものをあげることができます。
日本の医療市場は約40兆円で非常に大きいものですが、日本のGDP(国内総生産)当たりの医療費支出はOECD(経済協力開発機構)加盟国で比較すると上から20番目です。日本は世界最長寿国だとか、GDP世界第3位とか言っていますが、GDP比で見れば世界で20位ですから、医療費がないわけではない、医療にお金を使っていない、他に持っていっているのが一番大きな問題です。しかもこの40兆円の内、半分は健康保険料と患者の自己負担です。カナダ、ドイツ、フランス、イギリなどは自己負担がないのです。そういう国と40兆円を比較しても、日本は自己負担があっての40兆円ですから、政府の医療費の比率はもっと低くなります。
皆保険制壊し莫大な利益を
日本の医療費は抑えに抑えてやっているので競争原理を持ち込んで自由競争ということにすれば、もっと膨れ上がる怖れが十分にあります。そこで国民皆保険体制を壊して、保険外医療をふやし、保険外医療を補てんする医療保険を販売することで利益が上がると考えられています。
日本人は保険が好きですから、保険に入るんです。先進医療保険というのがあって、かなりの売り上げがあります。その売り上げが加入者還元される割合は10%程度です。アメリカで売られる医療保険は保険料の80%は患者のために使われています。アメリカでは利ざやが20%ですが、非常に利益率が高い。それは日本に国民皆保険体制があるからです。この部分は払わなくていい、そこから少し飛び出た先進医療分だけしか払わなければいいというので、アメリカの保険会社の利益は大きくなります。
医療に営利企業を参入させると何が起こるか。まず医療費が高騰します。利益のために無理にコストを削減すれば安全性が危うくなります。実際にアメリカでは営利病院の患者の死亡率は高いことが統計的に証明されています。過剰な検査、投薬、治療が利益追求のために行なわれる恐れがあります。また、不採算の診療科は閉鎖されます。利益の上がらない診療科を続けることは投資家に対する裏切りになるのでやってはいけないというのが彼らの「道徳」なのです。そうすると受診困難な地域が生まれてきます。
薬価が50倍以上に
メーカーが価格決める米
アメリカ式医療で薬価は…
医薬品の価格が暴騰した一つの例をあげます。ダラプリムという薬があり、これはトキソプラズマ、マラリアという原虫症に対する希少薬剤です。トキソプラズマやマラリアは妊婦、がん患者、免疫力低下者などが感染すると重篤化しやすいので、ダラプリムは非常に大切な薬です。
2015年8月にチューリング医薬品はダラプリムの製造販売権を買収し、翌日から1錠1620円だったものを9万円に値上げしました。大きな批判を浴びて騒動になりましたが、これは合法的である、不道徳であっても違法ではない。価格はメーカーが完全に自由に決めることができて、政府は何も言えない。
TPPに参加すれば、アメリカ式の医療が入ってくるわけですから、日本もこのようになっていくことが懸念されています。
崩壊する公共医療
FTAの下で韓・豪では
韓国はアメリカと自由貿易協定(FTA)を結んでいます。そこで医療のことを見ます。(特区に)営利病院が誕生しました。作ったのは中国の投資家です。中国人を相手に美容整形の施術を行なって、法外な治療費で莫大な利益を上げています。このような病院に医療関係者が吸い寄せられることで、特区外にも公共医療の崩壊、高額化という悪い影響が出ます。
所得上位階層は健康保険を忌避するようになります、上位階層は政府の扱う公的医療保険に入っている意味がないので民間医療保険に入ろうということになり、公的医療保険には入らなくなる。そうなると国民一人当たりの保険料が増加します。また、後発医薬品が出にくくなってしまいました。それで価格が上昇しています。医薬品の特許権者が後発品販売を差し止めています。販売権を買い占めて、少数の業者が販売するようになると価格を自由に操作でき、価格が50倍になった例もあります。
FTAが薬価に与えた影響は韓国ばかりでなく、オーストラリアでもあります。オーストラリアでは新しい医薬品の価格は似たような薬の価格を参考にして決めていました。後発(ジェネリック)医薬品も対象になるので、新薬の価格が世界一低価格だと言われてきました。アメリカはこれに抗議して、自由価格制を要求し、医薬品の価格が上がってきています。
(記事・見出し共に責任は編集部)