7月31日、箱根湯本・ホテルおかだで開催した拡大中央執行委員会で、後藤道夫都留文科大学名誉教授が「参院選後の情勢とアベノミクス」と題して講演を行ないました。今号では、講演のいくつかのポイントを紹介します。(記事、見出しとも責任は編集部)7月31日、箱根湯本・ホテルおかだで開催した拡大中央執行委員会で、後藤道夫都留文科大学名誉教授が「参院選後の情勢とアベノミクス」と題して講演を行ないました。今号では、講演のいくつかのポイントを紹介します。(記事、見出しとも責任は編集部)
改憲勢力3分の2超
戦争法が十分争点にならず
改憲勢力が3分の2を超えて、かつ同時に野党共闘の成果で自民党の大幅増をぎりぎり抑制できたというところかと思います。しかし、私たちにとって大事な経済問題、貧困、格差拡大、雇用不安、社会保障の改悪、全体として悪いほうに引っ張っているアベノミクス。こういう問題については、全国的争点には残念ながらできなかった。
戦争法が全国的争点できちんと議論したかというと、野党共闘という形で間接的には機能しましたが、直接的には十分な争点にはならなかったと思っています。まだ国民の多くの方がたは戦争法の問題を新たに廃棄させるという選択が差し迫ったものだとは、まだ多く感じておられないということかなと思います。しかし、憲法問題は明らかに各種の世論調査を見ましても、出口調査を見ましても、潜在的にそれを皆さんは意識しながら投票はした。
しかし、これも差し迫った争点ではないという微妙な投票の仕方をされたのだと思います。図表の1でここしばらくの4つの政党の国政選挙の比例票の推移をプロットしてみました。
増大する貧困層
生保以下が597万世帯
現在の貧困の状態を簡単に総括しておきます。政府発表貧困率が図表2の黒いひし形の黒い線です。ところが政府発表貧困率というのは相対的貧困率と言われています。全体の収入が大きく下がれば、相対的貧困率も実は下がってしまいます。
1997年の貧困基準は個人あてに無理やり計算した仮可処分所得の1人当たりの149万円というのが貧困基準でした。2012年には122万円。では149万円を固定したままでやったのが破線です。2012年で21%ぐらいです。実際は5ポイントぐらい上がるという結果です。相対的貧困率は相対的低所得者を測る基準としては役に立つのですが、貧困か否かは全然分かりません。
とはいえ2012年の貧困率16.1%を頼りに考えると、日本の人口1億2698万人のうちの2044万人になるが、生活保護受給者は216万人です。では、生活保護基準未満の人たちはどのくらいいるのか。図表3です。2007年のデータに基づいて2010年4月に厚労省の保護課が出したものです。民主党政権下で1回だけ出た数字です。総世帯数が4802万の中で最低生活費未満、つまり生活保護基準以下の世帯が597万。別に生活保護を受けている世帯が108万。生活保護を受けていないが最低生活費未満だという世帯は5.5倍いるということです。
所得はゼロでも差し押えは当然
これが日本の社会保障全体で一番大本になっている最悪のポイントです。他国の政府なら「それは異常な状態だ」といって、そういう人たちを減らす政策をやるのですが、日本の政府は「その人たちは実は困っていないのだよね。オ・ワ・リ」とこうなるのです。本当に困っていないのなら、所得がゼロでも、国民健康保険の保険料を無理やり取るのは当たり前である。強制的に差し押さえしても取るのは当然という話がどんどんくっついてくる。
だから生活保護を受けてないというのは、それだけの問題ではなくて他の領域での社会保障をやらない理屈になっています。働かずに生活保護者はいい生活をしているという感情を生み出して、国民が対立する関係を生んでいる。
収入減、非正規に
労働市場は底抜け状態
貧困の背景になっているのが労働市場の底抜け状態です。図表4、5で5区分をしてみました。1997年と2012年でどれだけ増減したかを右側の「2012―1997」で示しています。総数が233万人減っていますが、自営業と家族従業者の164万人減っています。これは男です。それから300万以上正規雇用が400万人減っています。300万未満正規雇用が19万人減でほとんど変わらない。非正規雇用が259万人増えています。男性は全体として就業人口が減っていますが、それでも300万以上の正規雇用が400万人も減っています。自営業、家族従業者も160万人減っている。両方合わせると、約570万人減っていることになります。
図表5は女性で、少し違ったパターンになります。自営業、家族従業者が311万人減っています。正規雇用がいずれも減っていて、もともと低い人たちが多かったので低いほうが減っている。非正規雇用が403万人増えています。無業が男性は91万人増えていたのですが、女性は229万人減っています。これは全部女性の20歳から64歳の現役世代でとっています。
女性の無業が約230万人減っているということの意味は重要です。いくつかの理由がありますが、結婚しない女性が増えた。適当な相手がいないから。つまり30代から40代前半ぐらいまでの男性の収入が大幅に下がったことがあります。もう一つの理由は小さい子どもがいて今までは無業で子育てをしていた人たちが、3歳未満ぐらいのところで15ポイントぐらいこの15年間で無業率が減っているのです。つまり、旦那の給料だけでは子どもが小さい時でも暮らせなくなっているということです。
安い給料で働く巨大な流れが
というわけで、全体の収入が特に男性中心に大幅にいろんな場所で下がっているということが女性の無業を減らす力としてすごい勢いで働いている。新しく働く女性たちの大半は非正規ですので、全体としては男性の給料が下がった分、安い給料で働く男女が増えるという巨大な流れが1997年以降で起きているということになります。
構造改革のねらいどおりに日本の労働市場が動いたということになります。そのねらいを食い止めるのは労働運動。ヨーロッパ諸国でせめぎあって押し込まれてはいますが、結構持ちこたえたりするのです。日本は残念ながら持ちこたえられず意図どおりに崩されてしまったというのがこの状態だろうと思います。
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