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○ 戦争は国民の自由を奪う/明治大学文学部教授 山田朗

総動員法で全てを統制
勅令で職場転換、賃金、物価も

 7月30日、パルテノン多摩で第25回多摩市平和展(多摩市平和展市民会議と多摩市の共同主催)が開催され、山田朗明治大学文学部教授がDVD「昭和と戦争・第3巻・銃後の女たち」の上映会で講演しました。1938年から40年にかけての時代背景の解説から、1938年3月公布の国家総動員法と日中戦争についての話を紹介します。

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台東区の今戸神社の皇紀(紀元)2600年記念碑。1940年、日中戦争の長期化による国民の疲弊感を祭典で晴らそうとした

 1938年1月の帝国議会で近衛首相は「事変の前途は遼遠」であると演説します。超大型予算が組まれ、まさに大戦争、長期戦争に対処するやり方がとられました。そして法律もこの第73帝国議会で国家総動員法、電力国家管理法などがつくられます。このあと1940年くらいまでに様様な統制の法律ができます。
 国家総動員法とはどんな法律なのかということですが、第1条、「本法に於て国家総動員とは戦時(戦争に準ずべき事変の場合を含む、以下これに同じ)に際し国防目的達成の為国の全力を最も有効に発揮せしむる様人的及物的資源を統制運用するを謂ふ」ということで、具体的には第4条で「政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り」、ここがポイントです、勅令、つまり天皇の命令によって「帝国臣民を徴用して総動員業務に従事せしむることを得、但し兵役法の適用を妨げず」、つまり勅令を出すことによって、国民を徴用することができる。
 1939年の国民徴用令で強制的に国民の職場を転換できるようになりました。令状が出て強制力があります。兵役についている人や軍需産業に関係する人は除外されますが、そうでない仕事についている人たちは、国の命令によってあなたはこの軍需工場で働きなさい、というような指定を受けて、強制的な配置換えが可能になる。それから例えば賃金統制令とか物価統制令など次次出されました。
 しかもこれはすべて勅令の定めるところにより、つまり天皇の命令で、天皇の命令は政府が立案して天皇の名において出すわけですが、政府が欲することは国家総動員法に基づいてどんどん勅令で実行できる。議会はこれに関与できないわけです。議会で作る法律ではなくて天皇の命令で、何でもやってしまう。政府が欲するところは何でも議会のコントロールを受けることなく、実行できる。国家総動員法ができたことによって、議会の力というのはもう決定的に弱まってしまう。

議会は有名無実化
政党は軍にへつらい

 ではなぜそんな法律が議会を通ったのかということですが、これは議会のある意味自殺行為です。しかし当時は軍部に接近することで発言力を維持しようという議会内勢力がけっこう多かったのです。軍に協力することで、自分たちの発言力を維持して行こう、政党の中にもそういう考え方の人が割と多かった。ですからこのような乱暴な法律ですがそれが議会を通ってしまう。戦争がすでに始まっているので、とにかくこれを乗り切るためには、このようなことも必要だという風に考えられたわけです。
 戦時における人的・物的資源を政府が一元的に管理をする、そしてそれを包括的委任立法といいましたが、要するに議会を通さなくてもどんどん議会の権限で勅令をつくって実行ができるという、こういうものです。議会の有名無実化といってもいいですし、行政権の強大化という風にいってもいいです。これがまさに国家総動員法がこの後の日本を非常に重苦しいものにする一番の原因なのです。日中戦争と国家総動員法というものが、やはり世の中を大きく変えてしまったということになります。

陸海軍が主導した
宣戦布告しない日中戦

 日本は中国に宣戦布告していません。中国も日本に宣戦布告していないのです。ですからこれは国際法的には戦争ではないということです。
 戦争と事変で何が違うのかというと、戦争ということを日本が宣言すると第三国は日本と中国が戦争をやっていることを前提に対処する、つまり中立を宣言するのが普通です。ですから戦争をやっている国には基本的に援助しない。
 日本がなぜ中国に宣戦布告しなかったのかというと、アメリカは当時、中立法という法律を持っており、戦争をやっている国には軍事物資を輸出しないとしていました。宣戦布告してしまうと、アメリカは当然その中立法を適用し、日本に戦争に関係する物資、これはおそらくガソリンなども含まれますが、これを輸出しないことになってしまいます。当時日本は非常に多くの物資をアメリカに頼っていましたので、宣戦布告をしてしまうと、アメリカの中立法の適用があるから、あえて宣戦布告をしない。
 これは実は陸軍と海軍が宣戦布告してくれるなと、あえて政府に申し入れて、政府もその意向をくんで宣戦布告をしなかった。
 ところがこれは両刃の剣であって、アメリカは日本に対して軍事物資を売ってくれますが、同時に中国にも売れるわけです。もし戦争状態が宣言されていると、そう大っぴらにアメリカといえども、中国に軍事物資を輸出することはできません。しかし戦争状態が宣言されていないために、結局、日本は諸外国から、戦争に関する物資を輸入できますが、中国も同じように、いくらでも軍事物資を輸入できる状態になってしまった。これは日本にとっては結果的にはまずいことになります。
 しかし、国家総動員法は戦争状態でなく、事変の場合であってもこれを適用するということになっており、まさに日中戦争への適用を前提とした法律だったといえます。

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