大韓建設協会で懇談する訪韓団(右から河和国土交通労組副委員長、申東京土建目黒支部書記、窪田東京土建副委員長、井上神奈川県連賃対部長)
韓国では、建設産業構造の透明化と建設技能者の待遇改善をめざし、建設労働者カードや労務費区分管理制度、直接施工制度などの導入に向けて取り組んでいます。建設関係労働組合首都圏共闘会議(全国建設労働組合総連合加盟の建設労働組合や公務の建設関係分野の労働組合など東京土建含む14組合が加盟)は、これらの取り組みを中心に、韓国の建設産業・労働事情を探る視察を行ないました(2月14日~17日)。東京土建からは窪田副委員長(首都圏共闘議長)が団長として、他に木村専従常任中執、村松書記、申目黒支部書記が参加。主な訪問先は、全国建設産業労働組合連盟、建設産業研究院、大韓建設協会、韓国勤労者共済会、ソウル特別市などです。
若年雇用労働者定着へ
退職共済制を軸にカード化
【本部賃対部発】大韓建設協会によると「金融危機後、低成長が続いたが、昨年は回復基調になった。要因は、公共事業の景気策と民間不動産部門の活性化。韓国でも人手不足で、大学卒業後に仕事がない若者も多いが、それでも建設業には入ってこない。就業者数187万人(全産業比6・9%)の20%は外国人労働者。2016年からは、政府の公共事業は減少することが見込まれ、民間部門も住宅分野の成長が止まっておりきびしい状況」、また、協会として「大きな課題は適正な工事費。特に公共工事の低い価格を解消したい。使用者側としても適正な工事費を受け取れない」とのことでした。
韓国でも若者が建設産業に入職してきません。要因として、低賃金、賃金未払い・遅配、休日が少ない、劣悪な就労環境などがあり、若手の入職促進に向けて、建設労働者の待遇改善は喫緊の課題です。そこで韓国では、いくつか独自の取り組みを始めています。
退職共済で活用のカードを見る荒井神奈川土建賃対部長
モバイルで積立額の確認も
ひとつは、退職共済制度を軸とする労働者の現場入・退場を管理するカードの導入です。2013年の建設業協会の資料では工事件数で22・2%、工事額ベースで77%の適用です。
韓国勤労者共済会では、この退職共済制度を軸とする電子化モデル事業に、昨年9月から取り組んでいます。労働者が現場でカードを読み取り機にかざして自動集計し、それを事業主がとりまとめて一度に申告します。金融型カード(クレジットカード)か指紋認証を利用しています。開始からの5カ月間で累計9万7千人(出力のべ人数)、登録労働者数は3800人、うち金融型カード利用者3100人、指紋認証700人。入場者の80%が申告しており、他は外国人労働者などです。
金融型カードの導入は、賃金と連動させる目的です。本人の口座と退職金の掛け金が連動し、今後は、安全教育、就労履歴などさまざまなデータの蓄積をめざしています。
かねて業者にとっては建設工事の複雑化、大型化などで労働者の現場への出入りと個人別業務内容の管理が困難で、一人ひとりの労働日数を担当者が手書き集計し届出する不便さがありました。これらを簡便にして現場の稼働人数を正確につかんで産業の透明化を進め、電子化で労働者はモバイルで積立額を確認が可能になるとのことです。
賃金や工事代金の未払いを防ぐことを目的に、韓国の建設産業基本法35条には「発注者による直接払いができる場合」の規定が置かれています。この規定を活用して、ソウル特別市では、「代金即時e支払制度」を設けました。元請・下請負業者と建機資材業者の工事代金や労働者の賃金を「元請負業者への支払分」、「下請負業者分」、「建機資材業者分」、「建設労働者分」に区分して(別口座に)支払い、工事代金の支払い遅延や労賃の不払などを防止します。区分して支払われた工事代金について元請負業者の引き出しを制限し、もし元請負業者に不渡りが発生しても下請負業者、建機資材業者、建設労働者への支払分は守られるようにしたことが特徴です。
ソウル市の不払対策
代金即時e支払制度を活用
2013年10月に「ソウル特別市公正下請負及び共生協力に関する条例」の第7条2項で、ソウル特別市(公社なども含む)が発注した工事のうち、工事期間が30日以上にわたる工事について、「代金即時e支払」システムを義務的に適用することにしました。これに基づいて2015年11月、発注者、ソウル特別市、大韓建設協会、大韓専門建設協会、全国建設労働組合、ウリ銀行、韓国透明性機構が、「共生協力を通じて公正な下請負の取引秩序をつくる」と「業務協約」を締結しました。同市が初めてのこの制度は、公共工事の透明化につながり、他自治体にも広がりを見せています。
未払い阻止する法律は必要
賃金未払いの原因は低い落札金額・率に原因があるとされ(平均落札率80%台、ソウル特別市約73%)、最低価格落札制度を代替するものとして、韓国でも総合審査落札制度を設けるようです。この制度のモデル事業で落札率は少し上がったようですが、韓国人労働者の雇用、労働条件にはあまり大きな影響ないとのことでした。賃金未払い、賃金削減を阻止する法律、システムそのものはやはり必要となっています。
実際には未払いは完全になくなっていません。労務費区分管理制度自体の趣旨自体はすばらしいものですが、事業者が労働者の口座を管理していたり、発注者や元請から本人に賃金支払いの確認の電話がきたら、「受け取りましたと回答しろ。そう答えなければ辞めてもらう」と事業者がおどす場合があるそうです。
適正賃金と直接雇用の法制化めざして
産別労働協約を実現
全産業平均超える賃金獲得
以上の取り組み以外にも、適正賃金に関する法案、直接施工に関する法案が国会に上程されていました。前者は、「建設労働者の雇用改善等に関する法律」第7条の3(適正賃金の告示等)を新設して、「雇用労働部長官は、建設勤労者の職種別技能別適正賃金を告示しなければならない」「国、地方自治体、公共機関の発注者の場合、適正賃金を反映した建設勤労者の賃金の総額を工事金額に含めなければならない」「事業主は建設勤労者に適正賃金以上の賃金を支払わなければならない」「発注者は適正賃金以上が支払われるよう元請と下請を管理しなければならない」「これを告示と大統領令で定める」としたものです。
後者は、受注者が確実に施工するために、ブローカーやペーパーカンパニーをなくすことを目的に、請負額の一定比率について、直接雇用(短期雇用を含む)する技術者・技能者が施工するとしたものです。建設産業基本法第28条の2を「直接施工する工事の工事金額のうち、100分の30以上に該当する金額を労務費に使用するよう直接施工計画を策定しなければならない」と改定して、労務費の確実な確保のために労務費の割合を定めようとするものです。
これらの法案については、「昨年末に発議されたが、4月13日に国会議員選挙があり、今国会が終わりかけている。会期が終わると自動廃案になる」とのことでした。残念なことですが、引き続きの取組みに期待したいと思います。
こうした国を挙げての取組みの推進力には、全国建設産業労働組合連盟の大きな奮闘があります。韓国のナショナルセンターは民主労総(約70万人)と韓国労総(約80万人)の二つあり、同組合は民主労総で最大の組合です(建設労働組合としても最大)。日雇い労働者だけでなくゼネコン社員も加盟し、プラント、土木、建築、タワークレーン、電気、重機など機械オペ、生コンなど、5万人を組織しています。雇用の安定と労働時間規制を求め、20万人の組織化をめざしています。
同労組は、タワークレーンオペレーター(韓国の住宅はほとんど高層アパートのためクレーン労働者が施工に強い影響力を持つ)の大半を組織し、建設業界や行政への発言力は非常に大きく、毎年のように「ゼネスト」を構えて各地域で産別の労働協約を実現、タワークレーンやプラント建設に従事する労働者においては、職種別協約賃金を実現し、全産業平均を超える賃金を獲得して若者が入職しています。訪韓団は韓国到着直後に労組を表敬訪問し、組織戦略を学び、チャン・オッキ委員長や昨年に私たちの集会で報告したオ・ヒテク前事務局長をはじめとする皆さんと懇親を深めました。