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○ 第32回 仲間の作品コンクール/文芸の部

川柳の部 選者・講評 高鶴 礼子

金賞 種まけばいつか実になる母の声
濱田 晴恵(荒川支部)
【選評】亡くなられてのちも、いいえ、亡くなられているからこそよけいに、心に沁みて感じられるのが《母》なる人であり、《残された言葉》であるのでしょう。がんばりなさい、大丈夫だよ、はっきりとした成果が今は見えなくても、いつか、きっと、種を蒔いたところからは芽が出て、それが結実する日が来るのだから、と──。

銀賞 この国は私のものと知らしめる
金田 修(江東支部)
【選評】「この国」を「私のものと知らしめ」ようとしている「私」なる人物が、この句においては、民の側にいる人物であるとも、権力の側にいる人物であるとも読めるという点です。前者として読んだ場合は素直な形で、後者として読んだ場合は反語として、それぞれに、今のこの国の状況に対する異議申し立てを果たしていることがわかります。

銅賞 粛々と杯を重ねて脂肪肝
黒田 順(東村山支部)
【選評】手柄は、なんと言っても、「粛々と」という副詞。この語の下支えにより、前段の措定が強固なものとなり、《落差のおもしろ》が、より上質な形で表出されることとなりました。描かれている《笑い》が、《他者を笑う笑い》ではなくて、《自分を笑う笑い》となっている点にも、ご注目を。


俳句の部 選者・講評 田中千恵子

金賞 雪吊りのバンダナ赤き庭師かな
田中 明(大田支部)
【選評】雪の重みで庭木や果樹の枝が折れないよう一本の支柱を立て、縄を八方に張る「雪吊り」。その作業をする庭師の中に、赤いバンダナで髪をきりっとまとめた人がいる。若い職人さんなのだろう。この仕事の将来性まで明るくする「バンダナの赤」が印象的な作品。

銀賞 拾弐本尺杖作る初仕事
渡邉 睦男(江戸川支部)
【選評】「尺杖」とは、一尺を基準に目盛をつけた一間以上の長い物さしである。作業は大工さん。建築現場ではまず、「尺杖」を作ることから仕事が始まるのであろう。清々しい意気込みの「初仕事」である。

銅賞 >秩父嶺の裾に風吹き干大根
横山 トク(府中国立支部)
【選評】沢庵漬にするためには大根を洗い、軒先などに吊るして日干しにする。秩父嶺から吹き下ろす風は、干し大根にいい皺を作り、おいしい漬けものに仕上ることだろう。書かれた景が目に見えるような作品である。


短歌の部 選者・講評 碓田のぼる

金賞 家造る職を喜ぶ夫といて 我と楽しむ財などなくも
篠田 綾子(葛飾支部)
【選評】家を造ることを天職として働いていることを、この上ない喜びとしている夫。また妻はその夫の生きざまに、心から共感している。心暖まる作品である。労働が喜びとは、まこと、このような事かと思う。

銀賞 バスの席膝に荷を抱く少年は 部活か疲れにうなだれ揺れる
日塔 善英(荒川支部)
【選評】日常目にする光景である。この一首をよんでいると、その光景が実にありありとしてくる。表現が強いイメージをつくっているからである。作者は、じっとこの少年を見つめている。その目はあたたかい。

銅賞 木もれ日の静まりかえる境内の 土のしめりにえごの花ちる
五味 みゆき(府中国立支部)
【選評】写生の歌である。しかし、ただ見たことを述べたという作とは、異なっている。静かな雰囲気の中で、えごの花の散るのをとらえているのであるが、「土のしめり」と歌った感性はすぐれている。

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