戦場ジャーナリスト 志葉 玲
イラクでの惨殺や拷問
米への怒りイスラム国生む
安保法制で米軍と行動をともにするようになれば、安倍首相のいう「国民の命を守るため」にはならず、アメリカの戦争犯罪に加担することになると話す戦場ジャーナリストの志葉玲さんの7月4日の三多摩平和交流会での講演を掲載します。文責・見出しとも「けんせつ」編集部です。
中東戦略に組みこまれ
日本から遠い中東で子どもたちを泣かせるのか(写真提供 志葉玲さん)
安保法制の支持者は中国や北朝鮮が攻めてきたらどうするのかといいますが、日米新ガイドラインによれば自衛隊の海外活動はアジアより中東で行なわれる可能性がきわめて高く、新ガイドラインでは、尖閣諸島など離島の防衛は自衛隊がやれと書いてあります。アメリカは中国とケンカするつもりはないのです。
安倍首相がいうホルムズ海峡の機雷除去や集団的自衛権行使の実例は、第3次アーミテージ・ナイ報告書に書いてあるそのままで、アメリカの中東戦略はイスラエルを守るための介入で、自衛隊が海外で戦闘行為や後方支援を行なうとなれば中東となります。
後藤健二さんと湯川遥菜さんが今年の2月に殺されましたが、そもそもイスラム国とは何なのか。巧妙に日本やアメリカの責任をなしにして、怖い残虐なテログループという報道の仕方が日本では非常に目立ちます。
イスラム教の大多数の人は穏健派です。イスラム国を名乗るISILはエキセントリックでイスラムの正統派からすればこんなものはイスラムでありません。ISILはイラク戦争が生んだ怪物です。
サダム・フセイン政権が崩壊したとき、軍人たちの一部がアルカイダ系の組織と合流してISILを作りました。ガーディアン紙のインタビューにISILの幹部が応じ、われわれは米軍の刑務所から来たといっています。もとは過激思想の持ちぬしではなかったが、米軍の刑務所でひどい虐待・拷問を受けてアメリカへのいきどおりがすごく強くなりました。
そうしたアメリカの戦争を支持・支援したのはだれか。当時の小泉首相は、国連安保理の武力行使容認決議が出ていないのに支援。国連憲章に従わない戦争は、国際的にみて違法な侵略戦争です。イラク戦争は違法な戦争でした。
安保法制で米軍活動を支援する、あるいは米軍と一緒にたたかうというが、米軍がイラク戦争で何をやったかふり返る必要があります。
自衛隊が手を汚すのか
米軍はバクダッドで治安維持のための掃討作戦で、住民を根こそぎ捕まえて収容所へ送り、抵抗したら殴るける、武器を隠してないかと家のものを全部壊す。うかつに抵抗すれば容赦なく撃たれます。
米軍の刑務所では少年や老人など戦闘要員でない人も拘束され、水責め、電気ショックなどの拷問がやられました。こうした拷問や虐待はジュネーブ条約違反です。捕虜虐待は許されないというのが基本ルールです。しかし、時のラムズウェル国防長官は拷問を推奨しました。
問題は日本が安保法制で米軍と行動する、あるいは米軍の後方支援を行なうとき、米軍がジュネーブ条約違反していたらどうするのか。実際にやりまくっていました。戦争犯罪を支援するのかを真剣に考えないといけません。
行使すべきは生存権
殺されず殺しもせぬために
イラクで最初に人質を取ったのはアルカイダでもイスラム国でもなくアメリカ軍です。テロ容疑者とおぼしき人物を確保できない場合、その家族を人質にする。イラク人女性が拘束され、虐待された。アメリカ軍内部資料で「イラク人女性を拘束せよ」と作戦がはっきり書いてあります。
当時24歳だった香田証生さんが2004年の10月にアルカイダに殺されました。その時小泉首相は、自衛隊は撤退させないと見捨てました。後藤さんや湯川さんと同じ。いざというとき日本政府はとても冷たい。安倍首相は戦争をしらなすぎます。後方支援は兵たんですが、イラクもアフガンも戦闘でなく移動中に路肩爆弾で吹き飛ばされる、危ないとか判断する前に吹き飛ばされて死ぬのが紛争地です。戦争をしらないバカな指導者によってむざむざ死ぬのが自衛隊員です。
米軍はイラク西部のラマディで、町の中心部周辺の建物を壊し、大通りだけで1年間で、病院に行こうとする妊婦や子どもを抱えた父親・母親など1000人殺しました。
自殺にPTSD発症
良心の呵責に苦しむ米兵も
イラクやアフガンから帰ってきた米軍兵士は1日平均22人が自殺している。PTSD(外傷後ストレス傷害)にも苦しむ。自分がイラクの人たちに、命令とはいえ、ひどいことをしたと良心の呵責に苦しんでいます。戦争・軍隊とはそういうものです。だから戦争はやってはいけません。
安倍政権は武器輸出3原則を撤廃し、防衛装備移転3原則を導入し、防衛省が金を出すので日本の兵器産業は金儲けしてくださいという状況にしました。
アメリカのF35戦闘機に三菱重工やIHIや三菱電機がかかわり、イスラエルが買います。アメリカやイスラエルが戦争犯罪を何度もくり返していることが、中東に怒りや不信をため込んでいる最大の原因です。
憲法前文に「われらは、全世界国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とあります。平和のうちに生存する権利は殺されないだけでなく殺さない権利もあります。人を殺すことは自分も傷つき、失うものも多い。平和に生きることは殺されないだけでなく、加害者にならないこと。そう考えると、安保法制は違憲です。憲法9条もすばらしいが、憲法前文はもっと評価されていい。行使すべきは集団的自衛権ではなく、平和的生存権です。私たちが行使するのです。