弁護士 秋野卓正
120年ぶりの民法大改正案が今年の国会に提出され、3年後から実施の予定です。この改正で建設業にはどのような影響がでるのか、匠総合法律事務所の秋野卓正弁護士が、5月12日に産業対策会議で行なった講演の一部を掲載します。(文責は編集部です)
瑕疵から契約不適合に
きびしくなった事業者責任
クレームの解決には契約書や書式の整備が欠かせない
民法大改正の重要なポイントは誰にでもわかるような言葉に変わることです。たとえば「瑕疵(かし)」というふつう使わない言葉は「契約不適合」という言葉になります。
「消滅時効」の制度が変わっていきます。現在は未収の請負代金債権は3年で時効になりますが廃止となり、権利行使できることをしったときから5年間、ないしは10年間となります。
次に請負の瑕疵担保責任の条文が削除されて売買・請負の統一的運用というかたちに変わります。瑕疵すなわち契約趣旨への不適合をしったときから1年と、しったときというところが基準点になります。民法改正成立後に、品確法や瑕疵担保の10年間の瑕疵担保責任に保険料を払ってフォローする制度・法律がどう変わってくるのかも注目ポイントです。
この他、法定利率の変動制、個人保証人の保護、契約の解除なども変わります。
工事請負の基本的な考え方は変更なしです。報酬の支払時期は、最後の工程まで終了させたら請求書を出し、引渡しとひきかえに代金を支払う基本ルールも変わりません。
工事が途中で解除になった場合、後の工事でも使える出来高であると認められるならば、その分のお金は請求することができるという規定を新設することになりました。
瑕疵については、平成15年10月10日の最高裁判決の基準が、それまでより消費者の権利拡大、事業者のほうに若干きびしくというかたちになったことから、「欠陥」という言葉ではくくられない瑕疵があることになり、今回の民法改正にあたっては、「契約不適合」という言葉を使おうということになったわけです。今回の民法改正でこの瑕疵担保責任の条文改正は民法改正の特徴を示す最たるものです。
消えるクレーム処理で業者に都合のいい条文
現状を見ますと、住宅トラブル処理はまさにこの契約不適合を判断基準にしておりますので、この判例知識は民法改正をきっかけにぜひ学んでいただきたいと思います。
民法634条、635条は削除されます。私たち住宅クレーム処理でとても都合のいい条文が、民法634条の1項のただし書です。「仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる」、瑕疵担保責任の原則で、ただし書きは例外として「ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない」。
瑕疵が軽微なのに要求が過剰である場合、これを使っていました。この切り札の条文が削除されて、「履行不能」という言葉に置き換わります。瑕疵が重要でない場合に修補に過分の費用を要する場合には、新しい民法も、お客さんが要求していることは社会通念的に見て不能かどうかを判断することになります。
これまで民法は取引実情に合わせ個別の規定を設けていたのですが、新しい民法は売買だろうが請負だろうが委任だろうが集約して、都合のよかった言葉がなくなってくるという側面があるのです。
「瑕疵」という言葉が民法からなくなったとしても、請負契約書、請負契約約款などをしっかり作って、トラブルが起きたときに羅針盤となるような約款などで、トラブル処理していく必要性が大きくなると感じています。
契約や書式見直しを
弱点克服しトラブル防止
不法行為に関しては実に悩ましい論点で、新築の瑕疵のトラブルよりも築15年とか築18年でトラブルをいわれたという、法律相談が多いのです。
リフォームで壁をはがしてみたら雨もり跡がある。不法行為に該当する瑕疵となると、不法行為の時効は民法724条で「損害および加害者をしったときから3年、不法行為のときから20年」です。壁を開けて中の状態を確認するお施主さんはあまりいないものですから、ほとんどこの不法行為のときから20年を使われて正当に権利行使をされます。
20年間も責任追及を受けるのは、瑕疵担保責任と不法行為責任は全然、別だからです。瑕疵担保責任は請負契約、売買契約に基づく責任です。不法行為責任は契約などなかったとしても成立する責任です。耐震設計偽造の姉歯建築士みたいなイメージです。
損害賠償を請求することができる、いわゆる不法行為に該当する瑕疵とは何ぞやと裁判で争われてきまして、解釈基準で決着をつけたのが最高裁平成23年7月21日判決で、この判決が20年間責任追及することができる不法行為に該当する瑕疵について非常に広い範囲の基準を定めました。それによって20年内の瑕疵について責任追及をより受けるような場面がふえる可能性があります。
新しい民法は売買だろうが請負だろうが委任だろうがみんな一緒にやろうという言葉の中で集約されて、都合のよかった言葉がなくなるという側面があります。
私たちは新しい民法の下においても請負契約書、請負契約約款などをしっかり作って、トラブルが起きたときに羅針盤となるような約款などでよりお客さんとの間のトラブル処理等を果たす必要性が大きくなるのかと感じているところです。民法改正という機会をあらためてトラブル抑止なり日ごろの請負契約書とか保証書、さまざまな書式見直しのきっかけなど、日ごろの弱点を克服するいい機会としてください。