【共同声明】
私たちは、新型コロナウィルスの感染拡大と大型建設現場で広がる現場の閉所の動きに対して、建設労働者の生命と暮らし、雇用を守り、小零細事業者の経営を支えるために立ち上がった「誰ひとり取り残さない!2020建設アクション実行委員会」です。私たちは官民の垣根を超えて首都圏の建設労働組合が集う28万2千人の組織です。
本日、建設現場における感染予防の徹底と現場閉所等による建設従事者の休業補償さらに、ゴールデンウイークを前後に危惧される工事代金の遅延、未払い防止を広く訴えるためにこの共同記者会見を設定しました。
建設産業は、500万人以上が就労し、関連産業を含めると就労人口の10%を超える基幹産業です。同時に経済活動や生活基盤を支える社会的な業界でもあります。
しかし建設産業は、いまでも「3K」(きつい、汚い、危険)と揶揄され、労働者は低賃金と長時間労働、劣悪な作業環境のもとで働いています。本日4月28日はILOが提唱する「4.28 国際労働安全衛生世界デー」でもあり、今年のテーマは「仕事における安全と健康に焦点をあてたパンデミックへの準備と対策」となっています。毎年この日には建設事業従事者の労働災害の一掃と労働条件改善、トンネル工事現場における粉塵ばく露や建築物解体工事現場などにおけるアスベスト建材によるじん肺被害の根絶、あらゆるハラスメントの根絶などを訴え、宣伝行動ならびに厚生労働省への要請行動を行っているところです。
先日、清水建設において現場管理に従事する社員がコロナ感染したことが明らかとなりました。私たちは大型建設現場での感染の危険性について繰り返し指摘したところですが、それが現実のものとなってしまいました。同業の仲間を失い非常に残念でなりません。あらためてお悔やみ申し上げるとともに、労働安全衛生の確保が労働者の生命と健康を守るため、何よりも大事なことを痛感したところです。
そのもとでゼネコン各社はこの公表を受けて、現場閉所の動きを強めていますが、建設現場はゼネコンを頂点とする上意下達のピラミッド構造にあります。下請業者は元請の動きに合わさざるを得ません。一方下請で就労する作業員の多くは日給月払い制(=日給制、就労日数×賃金)にあります。現場閉所は生活の糧を失うことに直結します。役務提供を主とする下請負事業者も同様です。この状況は自分たちの力では抗することができない、自助努力では到底賄えきれません。東京都はいち早く休業要請に応じた業者に対する協力金支援を打ち出していますが建設業は含まれていません。国、すべての自治体が休業要請に応じた建設業者と労働者への支援策を速やかに講じるべきです。
また近年、国の旗振りによる公共工事設計労務単価引き上げなどの施策やオリンピック・パラリンピック施設建設、臨海部開発、都心再開発事業でゼネコン各社はバブル期を凌ぐ収益を上げています。今こそその収益の一部を下請負業者、労働者に還元すべきときです。このままでは下請負業者、労働者は倒れてしまいます。
現場の一時閉所や工程変更、工期延長に伴う下請負業者の重機リース等の経費負担、労働者の休業補償、生活支援策を元請企業の責任で完全実施するとともに、発注者に対して理解と負担を求めるものです。ゼネコンなどの大規模建設企業は、特定建設業者です。行政官庁の許可を得て様々な事業を行いその任に見合った収益をあげ、事業活動を発展させてきました。特定建設業者はその社会的責任をしっかり果たし、下請負業者、一人親方を含む建設労働者への生活支援負担を重ねて強く求めます。さらには、行政官庁は企業への適切な指導を行うこと、パワービルダーやデベロッパーなど大手発注者は工期の無償延長など現場に無理を押し付けない対応を求めます。
さて、入管法改正を受け外国人の門戸が広がり、多くの技能実習生が建設現場で就労しています。彼らは本国にも帰れず、日々の生活と将来に不安を抱いています。「誰一人取り残さない」という精神と支援は、外国人技能実習生を含めたすべての建設事業従事者が対象であり、将来にわたり建設産業に大きく貢献するものと考えます。 新型コロナウィルスの感染拡大で大きな打撃を受けているのは建設産業だけではないことは重々承知しています。しかし、住宅や道路などの社会インフラを支え、災害発生時には最前線で対応にあたる建設産業が衰退することは、国民生活に直結する大きな問題です。私たちは6項目の要望を掲げ、新型コロナウィルス対策に合わせ、建設産業に働く労働者の処遇改善・生活改善の実現を国や自治体、元請会社に求めます。最後になりますが、私たちは、国民の安心安全を支える公益的な存在として、その使命に応えるべく新型コロナウィルス感染症収束後には都市機能、経済活動整備に全身全霊を投じて奮闘することをお誓いし、共同声明といたします。
【要望項目】
[1] 現場感染予防の徹底、工程等の見直しや現場一時閉所に伴う下請負業者、労働者の生活支援について
今なお大型現場では、朝夕の現場一斉入退場や数百人以上の朝礼、仮設トイレ、エレベーター、休憩所に作業員が集中している。さらに空調が悪い狭隘(きょうあい)な環境下での作業が常態化している。作業員の輻輳(ふくそう)を防ぐための工程の見直しと改善が強く求められる。以下要望する。
(1)[国及び自治体に対して] 一定規模以上の民間工事を含む大規模建設現場における感染予防対策の総点検を、元請事業者に対して指導強化をされたい。
(2)[国及び自治体に対して] ソーシャルディスタンシングでの作業スペースを確保出来ない場合には、工程の見直しや工期の延長さらに現場の一時閉所を含む協議を発注者、受注者間で行うように指導をされたい。
(3)[元請事業者に対して] 工程の見直し又は工期の延長に伴う経費増嵩、一時待機を求める下請負業者の休業補償を元請事業者の負担で行うこと。一時閉所又は一時待機を求める場合にはすべての下請負業者(一人親方を含む)の完全な休業補償及び経費増嵩を元請責任で行うこと。
(4)[元請事業者に対して] 工事の続行及び工事再開にあたって下請負業者(一人親方を含む)又は労働者からの感染による入場不安や工期延長、契約解除の要望に真摯に応じること。また、工事の続行及び工事再開後、再び感染症拡大のリスクが生じたと判断した場合には、速やかに工事の一時中断を行うこと。
(5)[元請事業者に対して] 下請負業者にコロナウィルス感染者が生じた際には、工事遅延等による違約金等を求めないこと。さらに、この事によって今後の契約に不利益を生じさせないこと。また感染者発生による下請負業者の経営支援及び相談体制を講じること。
(6)[元請事業者に対して] 現場作業を継続する場合には、作業員の健康管理を元請責任で実施するとともに、入退場時の健康チェックや衛生環境の徹底を図り、マスクの配布、三密の状況を防ぐために入場時間や作業時間の弾力的な運用をすすめること。通勤車両での三密を避けるために、下請負業者の車両受入れ数の確保増と費用負担を行うこと。なお、自転車、オートバイでの通勤についても柔軟に検討すること。
(7)[元請事業者に対して] アルコール消毒液の設置や不特定の者が触れる場所 の定期的な消毒、作業者の健康状態の確認、休憩所の換気など感染予防の徹底を図ること。
(8)[国及び自治体に対して] 上記、感染予防対策が行政指導に従わない、虚偽の申告をした元請事業者名および現場名を公表すること。
[2][国、自治体に対して]地域建設業者の事業継続と不払い相談の強化
新型コロナ対策に関わらず、地域地場建設事業者の経営支援は国民生活を守るためにも喫緊の課題である。いわゆる町場事業者の事業活動も様々な制約を受けており、契約の破棄や工事の延期が生じている。以下要望する。
(1)各自治体内にある建設業者の経営状況等の実態把握をされたい。
(2)緊急経済対策の地方創生臨時交付金を活用して、地域建設業者への支援策を実施されたい。
(3)融資等の申請処理は、すみやかに実行されたい。また融資手続きの簡素化と窓口職員の増員を関係機関に働きかけられたい。
(4)住宅新築工事・リフォーム工事の増加につながるための政策を実施されたい。
(5)ゴールデンウイークを前後し、工事代金の不払い事案が多発する恐れが強まっている。国、都、県の建設業課の相談窓口体制を強化(人員増)されたい。
[3][国・自治体に対して]地域建設業の受注環境の改善と景気回復のために公正賃金確保法及び公契約条例の制定
建設需要の減少により受注環境の悪化が懸念されます。ダンピング受注と建設労働者への労賃のしわ寄せを防ぐために、以下要望する。
(1)公契約法等で労働者の賃金下落を防ぐ法整備の実施
労働者(一人親方を含む)の賃金下落を防ぎ、公共工事設計労務単価水準以上の賃金支払いを求める公正賃金確保法及び公契約条例の制定をされたい。
(2)[公契約条例制定をする自治体に対して]
公契約条例を制定する自治体では、元請事業者に対して条例で定める労働報酬下限額以上の賃金を支払うべきことの徹底をされたい。さらに、発注者である行政官による現場従事者の聞き取りを重視し、条例の実効性を担保されたい。
[4] [国、自治体に対して]建設業の従事する技能実習生に対する支援について
技能実習生の多くが本国に帰れずに日本に在留している。技能習得時間の不足と収入減少、さらに本国への送金、健康などに不安を抱えている。以下要望する。
(1)技能実習生の実態把握を行い、必要な支援をされたい。
(2)新型コロナウィルス感染症緊急経済対策の特別定額給付金(10万円)が、技能実習生及び外国人労働者に対し、適正且つ直接に受領できる手立てを講じられたい。また、多言語対応の書類整備、相談体制を講じられたい。
[5][国、自治体に対して] 災害時対応への備えと人員確保について
2019年秋に発生した台風15号・19号による広範囲での豪雨・暴風や、全国各地で発生している地震など自然災害が多発している。
災害発生時に現場の最前線で復旧活動を指揮する土木技術や知識を持った国土交通省職員や自治体職員が減少し、緊急対応体制が脆弱化していることから、大幅な体制拡充を求める。
(1)災害時発生に迅速に対応するため、国土交通省や自治体の体制拡充・技術職員の大幅増員を図ること。
[6][国、自治体に対して] その他
(1)一人親方や外注手間請への補償と労働者に対する雇用調整補助金の増額と速やかな支給
①小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援制度では、雇用保険等適用している事業所の労働者は8330円(日額)。一方で一人親方や外注・手間請労働者は4100円(日額)が限度です。生活をするために実際の賃金に見合う助成額への増額とともに給付のための家族構成条件を見直しされたい。やむを得ず実際の賃金との差が生じるときには差額について自治体が助成されたい。
②雇用調整助成金では、中小企業への助成率10割給付と合わせて、給付額を増額し申請書類の更なる簡素化をされたい。
③事業所が労働者の生活を維持するために一刻も早く助成金を支給し、その後に申請書類を揃えるなど前例にとらわれない手続きで事業所の経営を守られたい。
(2)建設国保への支援
建設国保組合は建設従事者のいのちと健康を守るいのち綱である。収入が減少した被保険者の保険料を減免するための公的補助をされたい。保険料の更なる引き上げにならないように国保組合に対する補助の増額をされたい。
(3)事業用に使用される自動車税の減免措置
現場閉所や売上減少の影響で、自動車税は重荷になっている。事業活動に使用する車両の自動車税を減免されたい。
(4)建設資材の生産拠点を国内に
政府の未来投資会議(議長・安倍首相)は「一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものについてはわが国への生産拠点の回帰を図る」と述べている。建設資材の国内生産を支援する施策を進め、外国での事情によって調達など国内産業に影響が生じないようにされたい。
(5)労働保険年度更新時期の延長と保険料納付の猶予
外出自粛や休業要請により、労働保険事務組合は年度更新作業に困難をきたしている。また、労働保険料の猶予期間中の事業所における災害発生等に対し、保険給付等の申請を誠実に行われたい。